この本は福島原発事故の翌年に出版された。筆者の小出裕章さんは希望に燃えて原子核物理学の道に進んだところ、逆に原子力の底知れない危険を知るところとなり、その後は原子力をやめさせるために研究を続けているという異色の科学者である。やや過激な感はあるものの、原子力の専門家が説く反原子力、反原発論には説得力がある。考えてみれば単純なことだ。放射性廃物の処理方法すらない状態で、なぜ原発を続けるのか。そもそもなぜ原発は大都市から離れたところに建てられているのか。この点だけでも原発はおかしい。危険なものを安全だと言って推し進めようとするのは一体どんな力だろう。
さらに筆者は現代世界に生きる人々の暮らしをエネルギー消費量という観点から分析してみせる。おもしろい視点だ。それによると、ひとり1日あたり4万キロカロリーぐらいのエネルギーが使えるようになれば、その国の平均寿命は70歳を突破するという。日本では1970年ころまでにそれが6万キロカロリーに達し、平均寿命が大幅に伸びた。現在ではエネルギー消費量はさらに増え、ひとりあたり12万キロカロリーぐらいだそうだ。一方、平均寿命が40歳を下回る貧しい国々では、それは1~2万キロカロリーである。反対にオイルマネーで潤う中東には、ひとり1日あたり20~40万キロカロリーととてつもなくエネルギーを消費している国々もある。が、だからといって平均寿命が100歳を超えているわけではもちろんない。日本も含めたエネルギー消費量の多い国では、生きるためというより、ぜいたくをするために多くのエネルギーが使われているのだ。地球温暖化も、脱原発も、省エネも、問題の根本は、未来の世代のために今を生きる私たちがどんな暮らし方を選択していくかということだと思った。