著者は1984年生まれで、本業は水墨画家。奥深い水墨画の世界を(どんな世界も突き詰めれば奥は深いが)、みずみずしい文章で描いている。水墨には色がない、そして塗るということがない。墨で描くただ一本の線。その線は対象を描きつつ、実は僕を描くのだという。喪失感で心にぽっかり穴が空いた青年青山霜介と、水墨の大家湖山先生との出会いから物語は始まる。登場人物は少なく、その一人一人が真摯に自分の水墨を追求していて魅力的だ。すがすがしい読後感の青春小説。