現代の名工の案内でひと味ちがった文化財鑑賞を楽しむ。科学技術は時代とともに進歩していくが、手仕事の領域はそうとは言えないようだ。宮大工として長年文化財建造物の修理にあたってきた著者は、鎌倉室町期に建てられたもの、それも瀬戸内地方に残っているものが一番すぐれていると言う。時代が下るにつれ作業効率のいい道具が出てきたり、大工の仕事がマニュアル化されたりして、結果的に建造物の質は落ちてしまった。木のよさが生かされなくなったり、大工が技と工夫を凝らして自らの美を追求することが少なくなったからだそうだ。
「マニュアルが悪いとは言いませんが、職人がマニュアルに頼るようになったらおしまいですよ。無心に木と向き合い、木材と向き合い、技術と向き合うから、新しいものが生まれてくるのです。その意味でも中世の大工はまったくたいしたものですよ。中世の大工が残していった建物を見てやってください。そこに世界最高の木造建築技術と日本の美があるのです」