中国残留孤児の物語を書くとき、陸一心の妹あつ子のように人間らしく生きることができずにぼろぼろになって死んでいった子どものことをこそ書かねばならないと、作者の山崎豊子は語っていた。その筆には戦争と戦争へ国民を導いた指導者への激しい怒りがある。同じ孤児でありながら一心とは対極の運命を歩んだあつ子。
「兄ちゃん、どんなに遠うても、日本の土を一度だけでも、踏んで死にたい。母ちゃんと父ちゃんの国、日本を一目だけでも、見て死にたい」もう長くはなさそうだと云われている病んだ体で、一心の両腕に取り縋った。一心は、狂ったように妹の体をかき抱き、嗚咽しつつ、人間の運命を思った。自分は陸徳士という慈悲深い第二の養父に恵まれて育ったが、妹は戦争孤児として日本の大人たちの犯した罪を、幼い体で償い、農村で牛馬の如く酷使されながら、生きてきたのだった。
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やわらかい絵とやさしい文章が一体になった温かみのある絵本。まだ幼いなっちゃんに弟ができて、なっちゃんはお姉さんになった。お母さんに甘えたいけれど、お姉さんだからとがまんするなっちゃん。だから「ちょっとだけ」。「なっちゃんは、ママのスカートを“ちょっとだけ”つかんであるきました。」 でも、やっぱりさびしくて、なっちゃんの表情はだんだん沈んでいく。「“ちょっとだけ”ブランコがゆれました。」の場面ではくつが片方脱げ、なっちゃんの顔はとてもさびしそう。それまでの“自分でやったよ”という少し誇らしげな表情とは全然ちがう。そして最後の場面、「なっちゃんよかったね」と、読み手も一気に温かい気持ちに包まれる。えらいお母さんだな。
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原発、選挙、オリンピック誘致、国策PR・・、これらのことへの世論(民意)は、なんと巨額の金が動き、広告のプロたちによってつくられ、操作されていたとは。私たちは日々の生活に追われ、個々の政策についてその是非を判断する時間も知識も情報も、何より関心も持ち合わせていない。そのことに暗澹たる気持ちになる。
著者あとがき、「取材を重ねれば重ねるほど、考え込むことばかり増えていく仕事だった。民主主義の建前など欠片さえも残っているのかどうか。この国には政府や巨大資本の意向がまずあって、いわゆる民意はそれらに都合よく誘導されていくことが義務づけられているものでしかないとさえ思われる場面を幾度も見せつけられた。単に情報操作というのとは異なっている。もっと深いところで、莫大なお金が使われ、マスメディアだけでなく、社会のありとあらゆるメカニズムが動員されて・・。そのようなシステムに導かれた末に今回の原発災害もあるのかと思うと、悔しくてならない。」
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